黒曜石は、その名の通り、その黒色が特徴である。
「黒耀石」と表記すると、その独特の黒い色合いが想像しやすいかもしれない。
黒という色は、単純なようでいて、実はとても趣深い色である。
科学的には、黒という色は、スペクトルの中で、すべての色を包含する色である。7色をすべて含むということだ。
対照色である白色は、7色のすべてを反射した色である。
すべての色を呑み込んだ色が、黒なのである。ここに、黒という色の深さがあるように思う。
このことは、とりわけ石の色を考えたとき、実に興味深さを増す。
黒曜石の黒は、その石の性質上、角度を変えるごとに耀くことから、非常に多様な黒を成す。
一つとして、同じ単調な黒というものが、黒曜石にはない。
多種多様な耀き方をしながら、それでいて「黒」というまとまりをもつ。何と意味深いのであろうか。
哲学的ですらある。
そういえば、ヨーロッパでは、知性の牙城たる大学の制服は、黒が多い。黒は、知性の色でもあったのである。
そのような歴史を知った上であらためて黒曜石に魅入ってみると、静かにたたずむその石は、実に知性的なたたずまいをしているように思えてくる。
静かに座っている黒曜石は、見る場所を変えるごとにギラリとした鋭い光を発する。このあたりの表情が、この石をして、「精神の深い内側を映し出す」といわしめるのであろう。
石というものは本当に不思議な存在で、「しょせんは石ころ」としか思えない人には理解できないだろうが、石に霊性を感じ取ることができる人にとっては、実に雄弁に語りかけてくる。
いや、語りかけるだけではない。
黒曜石のような石は、一種独特の鋭さをもって、見る者の深層心理にまで訴えかけてくるのだ。
それは、表層的には自覚していなかった心の闇であったり、あるいは逆に希望に満ちた真意であったり、自らの心でありながら自ら知らずにきた本当の己の姿を、思い出させてくれるのだ。
だから、石は、侮れない。
美しい色彩を持つ石よりも、この、極めてシンプルな黒をまとう黒曜石は、わが心と向き合うきっかけを与えてくれるのである。
そういえば……かのスティーブ・ジョブズは、ある時期からずっと黒い衣服を着用していた。三宅一生氏のデザインによる同じ黒の衣服を、大量に保持していて、それしか着なかったのである。
着目すべきは、ジョブズが選んだ色が「黒」だったということだ。
ジョブズ氏は、禅の思想に深く傾倒し、物事をシンプルにという姿勢を徹底したという。
今もなおファンを魅了してやまないApple製品の工芸品のような美しさは、その思想の賜物である(かくいう私も、そのファンの一人だ)。
黒曜石マニアの皆さんには、そもそもその「黒」という色自体に魅了されている方も少なくないのではないだろうか。
同好の士の皆さん、今日もまた、黒曜石の素晴らしい「黒」に耽溺しようではありませんか。